「レオナルド・ダ・ヴィンチ ― 天才の挑戦」(江戸東京博物館)

僕は”美術”の愛好家でもなければ、もちろん専門家でもなく、
単なる”絵画好き”である。

“絵画好き”からすると、レオナルドの作品というのはどうも「とっつきにくい」のである。

作品数が極端に少ないのもそうなのけれど、
観る者をふるいにかけているかのような、超然とした趣きがあるのがその原因だろう。

今回、日本初公開となった「糸巻きの聖母(バクルーの聖母)」にしても、
正直に告白すると、実物を観るまでは、苦手なレオナルド絵画の中でも、
特に魅力のない、すましてはいるがありきたりな、、という印象だった。

「レオナルド・ダ・ヴィンチ ― 天才の挑戦」(江戸東京博物館)

不思議なもので、第一印象が悪い人間でも、
話していくうちにその魅力に気づいていくのと同じで、
絵画もまた、眺めているうちに気心が知れてくるというか、
その優れた点がクローズアップされて、こちらの脳に、心にビシビシと響いてくることがある。

朝から冷たい小雨が降っていたこの日、館内の混雑はそれほどでもなかったが、
さすがにこの「聖母」の前には専用の行列ができていた。

僕はそこに4回並んだ。
そしてこの作品と4回会話をした。

一回目は疑いで、二回目は半信半疑で、三回目は感嘆で、四回目は反省だった。

この絵画の素晴らしい点は、もう何百年にも渡って語られているのだから、
ここで改めて自論を述べるのも野暮なのであろうが、
でも、謝罪の意も込めて敢えてここで触れさせていただきたい。

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絵の構図を確認する上で、一番手っ取り早いのは、
画面の中央を確認することである。

画面の中央に、もっとも重要なファクターを置くことが、
レイアウトの基本となる。

この絵では・・・まさに聖母の心臓だ。

この作品の揺るぎない安定性は、まずは中央に聖母のハートを配置したことにある。

そこさえ見抜ければ、残りの謎解きはたやすい。

聖母のハートを横切る線は、彼女の右手と神の子の右手を結び、
そこから彼女の左目に戻る線は正三角形を作り、
一方、真上に伸びたクロス(十字架)がイエスの視線を引き寄せる。

そして、画面中央の正三角形をベースに、左下へ伸びるイエスの体と、
右上へ向かう視線。

画面の右上の角と左下の角を結ぶ対角線は、
聖母とイエスを分ける境界線であり、同時に、正三角形の重心を貫いている。

つまり、聖母のハートを中心とした幾何学的モチーフを根底とした上に、
正確なデッサンを重ね合わせるという、
科学者でもありアーティストでもあったレオナルドならではの、
技巧が凝らされた名作といっていい。

確かに、ぱっと見は地味だし、(僕が最初感じたように)捉えどころのない絵のように見える。

しかし、ひとたびこの絵の原動力となっている構成の妙に気づきさえすれば、
あとは感心するしかなくなる。

あらためて思う。レオナルド恐るべし。