「デュフィの歌」(大久保 泰)

随分と古い本で、
初版が昭和24年(1949年)、僕のはその2年後の再版のものだが、

再版2000部ノ内 第1503号

とわざわざ記されている。

価格は600円、
当時の600円は随分高かったのではないかと思うのだけれど、どうだろう。

さてこの本は、いわゆる「セザンヌ以後」のパリの画壇について、
画家ひとりひとりを論じながら語ったもので、
その名前を挙げると、

ラプラード、マティス、ドンゲン、マルケ、ボナール、デュフィ、ピカソ、ブラック、スーチン、シャガール、モディリアーニ

という画家たちなのだが、

特筆すべきは、
この本が書かれたときには、まだ存命あるいは死後間もない画家たちばかりであり、
「同時代的な視点」から、彼らの作品の価値を語っているという点だ。

たかが70年前と思うかもしれないけれども、それだけの時間があれば、
芸術家やその作品のステレオタイプを確立するには十分である。

まして絵画鑑賞というのは主観的なもので、
一般的評価に加えて、個人の好みや贔屓といったものが必ず混じってくるので、
「なるべく生のままに近い評価」というのは、どうしても困難となる。

その点でこの本は、上記の画家たちに実際に会ってみたり、
あるいは、彼らと苦楽を共にした、例えば藤田嗣治のような人と話してみたり、

もちろんそこには、同時代ならではの別種の偏見がないわけではないが、
現代の我々が感じるのとは明らかに異質の、
新鮮な感情を読み取ることができる。

輝かしい印象派の時代が終わり、
セザンヌが残した美術上の課題を、これらパリ派の画家たちがいかなる形で解決したのか。

美術評論としての読み応えも十分だし、
戦後間もない時代に書かれたエッセイとしても味わい深いものがある。