「ミュオグラフィ」(田中 宏幸 大城 道則)

 

ピラミッド云々、という副題を見ると、
なんだかオカルト関連の本っぽく感じるけれど、
マジメな科学の本である。

光子(フォトン)が描く像を「フォトグラフィ」と呼ぶのと同様、
ミュオンが描く像のことを「ミュオグラフィ」という。

ミュオンは、宇宙から降り注ぐ宇宙線が、
地球の大気に触れる際に生じる素粒子であり、
我々の体も、一日に何百万というミュオンが通過している。

ただ、ミュオンは物体の密度により、
通過できる・できないという性質があり、

それを利用することで、目視することができない建造物内部の構造などを、
描くことができるというわけだ。

そのミュオンを用いた観測が初めて行われたのが、
エジプト三大ピラミッドのひとつ、カフラー王のピラミッドであり、

それ以降数十年の間に、火山の内部や、
最近では福島原発の炉心の様子など、
まさに科学の最前線の新手法として、ミュオグラフィは用いられてきたという。

「見えないものを見えるようにする」という意味では、
かの有名な、レントゲンによる手の透過映像と同じぐらいの価値があると言っても過言ではないだろう。

そしてまさに原点回帰ともいうべく、
クフ王のピラミッドのミュオグラフィ観測が2016年から始まったとのことだ。

成果については、ちょくちょくニュースで目にしたような気もするが、
まだ我々一般人が驚愕するような事実が見つかったわけでもない。

けれど、たとえクフ王のピラミッドが空振りに終わったとしても、
他の様々な遺跡の内部や、あるいは太陽系を横切る彗星の内部など、
ミュオグラフィが適用できる対象は無限にある。

いつかは、誰もが驚くような大発見を成し得ることを期待したい。