「死の勝利」(ダヌンツィオ)
小説というものが極端に少ない僕の本棚の中で、
貴重な作品。

森田草平の『煤煙』に影響を与えた作品として有名で、
コテコテの浪漫主義というか、
ワーグナーの心酔者が小説を書けば、間違いなくこんなんになる、
という見本のような作品。

経済的には何不自由なく、恋人にも恵まれている青年が、
なぜか「死にたい」という願望にとらわれ、
最後は恋人とともに無理矢理心中してしまうというのがこの話。

もし同じテーマで小説を書いてくれ、と依頼されたら、
この3分の1の量で書けるだろう。

一言で言えば、「冗長」なのだ。

人物の内面の描写、風景の描写を語るだけで、
紙面の3分の2は費やされる。

まるで、出来の悪いフランス映画を観るように、
グズグズと、どうでもよいストーリーが語られていく。

作者としては「トリスタンとイゾルデ」を模倣しているのだろうが、
あちらはさすがに、音楽がある。

いくら熟練の詩人であっても、同じ内容を散文だけで表現するのは、
困難極まりない。

そんな困難に、堂々と挑戦したのがこの小説なわけだが、
この主人公が何故死にたく思うのか、
さらにはなぜ恋人も一緒に巻き添えをしなくてはならないのか、
その肝心な心境の変化の理由が、全くもって分からない。

だからこの作品は、
雰囲気を伝える散文詩としてはよく出来ているのかもしれないが、
残念ながら小説としてはかなりの失敗作だろう。

でもまぁ、イタリア語で書かれたイタリア国民のための小説、
という見方をするならば、

文学的価値という点では、
若干の評価し直しをしなくてはならないかもしれない。


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