「三味線の知識・邦楽発声法」(富士松 亀三郎)

 

そもそも諸悪の根源は家元制にあるのだろうし、
もちろん、すべてのお師匠さんに当てはまるわけではないのだが、
邦楽の稽古というものは、洋楽のような理論・体系を以って行われることが少ない。

とにかく「カン」と「経験」がモノをいう世界のように、
なってしまっている。

「習うより慣れよ」が悪いとは思わないが、
理論を知った上で慣れるのと、そうでないのとでは、
習得の効率に大きな差があることは、明瞭である。

スポーツ界もそうなのだと思うが、我が国の芸能において、
効率よりも根性というか、叩き上げ精神のようなものを尊重する風潮は、
いい加減やめにしたらよいと思う。
そのために、どれだけの才能が犠牲になったかしれない。

この本は、1960年代の刊行であるが、
上記のような邦楽界の教育方法の弱点にいち早く気付いた著者による、
理論的な三味線演奏法・発声法の概論である。

ハジキの際の最善たる指の使い方、右手首を柔らかくするマッサージ法など、
通常の解説書には絶対に書かれないであろう、
細かな、しかし奏者にとっては必ず役に立つ情報が満載である。

三味線の奏法のみならず、当然ながら楽器自体の構造までも話が及び、
棹と胴の重さのバランス、胴のくり方についてなどの明確な指標を示すよう、
三味線の作り手に呼びかけるなど、邦楽への情熱がひしひしと伝わってくる。

後半の発声法については、主に母音と子音をどのように発音するかについて、
簡易的に解説してある。

これも成程、と思わせる箇所が多々あったので、
次回の語りの稽古から実践してみたいと思う。