「音楽と言語」(T・G・ゲオルギアーデス)

ヒトにとっての初めての音楽体験が、
「歌うこと」であっただろうことはほぼ間違いなく、
であるならば、音楽と言語とは表裏一体のはずで、

この本は、そんな音楽と言語との関係を綿密に、
主に中世以降の宗教音楽における言葉の扱われ方という点から、
検討したものである。

ともすれば抽象論に陥りがちなテーマではあるが、
譜例を豊富に挙げて、
あたかも音楽が聞こえてくるかのように論じているのが、
この本が名著といわれる所以であろう。

ヨーロッパの中世はラテン語全盛の時代であり、
その中から如何にして各国語の文学が生まれてきたか、ということは世界史でも習うのであるが、
声楽曲においても同様な動きがあったことは、
考えてみれば当たり前なのだが、意外な盲点であった。

そのような、いかなる言語で歌うかというマクロ的な視点から、
言葉のアクセントと、音楽の拍やメロディとの一致不一致といったミクロの視点まで、
実に明晰に語られている。

ただ、著者はドイツ人というもあり、
バッハとベートーヴェンをやや持ち上げすぎかな、という気がしなくてもなかった。
もちろん、この二大巨匠は、特別視されるだけの価値はあるのだけれども。

そして久々に、「ミサ・ソレムニス」を聴いてみたい気分になった。