「鬼の風土記」(服部 邦夫)

 

本書は、

「鬼の風土記」「おとぎ話の原像」「漂泊・鎮魂の譜」

の三部構成となっていて、
道行というか、鎮魂というか、
歴史や文学の舞台となった各地を訪れることで、

歴史・文学に複雑に絡まる、民俗学的なルーツのようなものを、
手繰る試みでもある。

特に、最後の「曾我物語」の解説における、
全国に「虎石」と名付けられたものが点在しているのは、
漂泊の語り手が自らを「虎御前」と名乗ったことによるものだという洞察は、

物語とは「語られるもの」であり、
それはすなわち、登場人物と自らをオーバーラップさせることで、
あたかも一人称によるストーリーであるかのように錯覚させるという、

文学・芸能の方法論、形態論につながっていくという意味で、重要だと思う。

ところで、「鬼の話」という意味では、
頼光四天王の一人、渡辺綱が鬼の片腕を切り落として持ち帰ってくる、
という話に、前から興味を持っている。

そもそも「鬼」自体が、
エロスとタナトゥスの「あいのこ」のような存在なのだろうけれど、

渡辺綱の話には、さらに一歩踏み込んだ、
部分性愛的な側面があるような気がしてならないのだが、
あまりにもディープな話になるので、またの機会にとっておこうと思う。