「病が語る日本史」(酒井 シヅ)

 

病気とは、得体の知れない敵である。

かつてのペストやスペイン風邪にせよ、
そして現代のエボラ出血熱やエイズにせよ、

敵は見えないところからやってきて、
しかも相手にするには厄介な場合が多い。

その感覚は、医療が未発達であった時代であれば、
なおさらだったであろう。

コレラやマラリアのような感染症なのか、
それとも脚気や糖尿病のような食事が原因なのかを問わず、

多くの病は「物の怪」の仕業とされ、
それを扱うのは医療よりも、
宗教の役割であった時代が長く続いたわけだけれども、

その長い「医療暗黒時代」に、
果たしてどれだけの病が猛威を振るったのかについて、
歴史の授業で習うことはあまりない。

戦(いくさ)で死んだ人のことは扱うが、
病に倒れた人のことは、
歴史の負の部分として埋もれてしまっている。

そんな歴史の裏側を覗いてみるには、この本はうってつけだろう。

道長、清盛、家康etc.といった歴史上の偉人たちが、
どれだけ病気に苦しみ、そしてどのように命を落としたのか、
それを知ることは、
彼らが「何をしたのか」を学ぶことと同様に、興味深い。

そして、病気の歴史を知ることは、
すなわち、我々自身の健康について考えさせられるきっかけにもなる。