「大江戸死体考: 人斬り浅右衛門の時代」(氏家 幹人)

 

歴史とは文字で書かれたものであるから、
「何を歴史とするか」については、
誰かしらによる何らかの意図が加えられていないはずがない。

つまり、我々が知っている歴史などは氷山の一角であり、
闇へと葬られたアンダーグラウンドな部分にこそ、
実は貴重なネタが眠っていることもある。

この本で紹介している「山田浅右衛門」がまさにそれで、
通称「人斬り(首斬り)浅右衛門」。

代々、刀や槍の切れ味を試す役として、
死刑執行後の屍体を、もしくは生きたままの罪人を、
切り刻むことを生業としてきた。

忠臣蔵の四十七士でさえも、切腹の方法を知らないものが結構いたと伝わっているぐらい、
要するに江戸時代は「平和ボケ」だった(それはそれで良いことではあるが)。

中期以降になると、刀で人を斬ったことなどないし、
ましてや、「美しく斬る」などということは、並みの武士にできる芸当ではなかった。

だからこそ浅右衛門のような人物が重宝されたわけで、
同時に、人が触れたがらない穢れを、一身に背負いながら生きる辛さもあったであろう。

歴史を表側から見ただけでは、決して知ることのない貴重な記録を、
これまた普段お目にかかることのない図版を用いながら紹介しているので、
キレイゴトな歴史に飽きた方には、オススメしたい。