「日本古代呪術」(吉野 裕子)

 

「呪術」などというと、随分おどろおどろしく聞こえるが、
「陰陽五行思想」と「性」によって、
日本古代史の意味を再解釈しようというのが、この本のテーマである。

ご存知のとおり、日本という国は、よそから来た文物なり風習なりを、
いとも簡単に変質して取り込んでしまうという性質があるため、

古代から残る伝統や芸能、文学、遺跡等を解釈する際には、
その根底にある複雑に絡み合った思想を解きほぐさなければ、
真の姿は見えてこない。

そしてほとんどの場合、
その真実に迫ることは、困難を極めるのである。

だがそこに、著者の述べる「五行」や「性」といったカギを持ち込むことで、
すべてに明解が与えられるわけではないが、
解釈のヒントのようなものが見えてくる。

また、女性が「性」について語るとき、
感情的な論調になることがしばしばみられるが、

この著者にはそのようなことは一切なく、
生々しいはずの「性」を、見事なまでに客体化し、
日本文化を語るための触媒としているのはさすがである。

僕個人の意見を書かせてもらえば、
日本文化を語るキーワードのひとつとして「胎生」が挙げられると思っている。

「胎生」は、もちろん性に直結するキーワードであって、
「胎生」とそれに続く「変態」(メタモルフォーゼ)こそが、
文化の底流をなす生っぽいファクターだということを、
この本を読みながら少し確信できたのではと思っている。