「すごい進化」(鈴木 紀之)

「すごい進化」(鈴木 紀之)

「すごい進化」(鈴木 紀之)

 

まさに副題にあるとおり、

進化における「一見すると不合理」な事象について、

「制約」ではなく「適応」の立場から、論じた本である。

著者の専門がテントウムシのようで、
例が昆虫に偏っていたのは少し物足りなかったけれど、

それを補って余りあるほどの、
斬新な考え方が詰まっていて、興味深く読むことができた。

明らかに成長に有効とは思えないエサのみを食べるテントウムシ、
スズメバチに似せようとしてはいるが、あまり似ていないアブの擬態、
異種のメスにアプローチするオス、

こういった、一見ネガティブというか、進化上のエラーに見える事象であっても、
実はそこには、進化上のポジティブな理由があるという著者の姿勢は、

旧来の学説にしがみつくあまり、都合のよい解釈をしがちな偏狭な学問とは真逆の、
事実をベースとした柔軟思考であり、とても好感が持てる。

かつて養老孟司先生が居酒屋で僕に語ってくれた、

「人間が考えるぐらいのことは、虫はとっくに実現している」

という言葉を立証しているかのようだ。

ただ、素人意見としてひとつ不満を挙げるならば、
「ハンディキャップ理論」については、無理して肯定しようとしている気がしていて、

そもそもよく例として採用されるクジャクの「派手さ」については、
目玉模様の数がメスを惹きつけるのだと述べるのであれば、
逆にその目玉模様の多寡が、
天敵からの襲われやすさを左右するのだということを証明しなければならないし、

また、ヒトにおけるハンディキャップ理論の例として、
高い婚約指輪を買う男性ほど魅力的に見える、というのは、

クジャクの羽根模様が生来の特徴であるのに対し、
婚約指輪を買う・買わない、は一時的なインシデントにすぎないのだから、
そもそも比べる対象が間違えているのではないか。

端的に言えば、高い婚約指輪を買うことは、社会的な「見栄」であって、
進化学ではなく、社会学的な土俵で語られるべき問題だと思う。

そこを差し引いたとしても、
求愛のエラーとか単為生殖についてとか、とにかく旧来の学説にはない意見が次々に出てきて、
最近、中公新書に良書が多いという実感を、さらに強めるに十分である。

これは余談だけれども、
テントウムシって、成虫はあんなに愛らしい姿をしているのに、
幼虫はあんなに「肉食獣」的なのが、不思議。

大抵の「完全変態」の昆虫は、
幼虫と成虫とでは、食べるものも違うし、
幼虫はいかにも頼りなさそうな見た目をしているものだが、

テントウムシは、幼虫も成虫もアブラムシを食べるし、
見た目的には、幼虫の方が「大人びて」いて、
こういうところにも、進化というか生物の神秘が垣間見られる。

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