「眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎」(ダニエル・T・マックス)

 

18世紀以来、あるヴェネツィアの一族を苦しめてきた、
「致死性家族性不眠症」(FFI)をめぐる、医学ミステリー。

その一族では、中年になると、
全く眠れなくなり、強烈な疲労感の中で死亡するという、
未だに治療不可能な奇病が、高確率で発生する。

こう書くと、まるでホラー小説のようだが、
これはメディカル・ドキュメンタリーであり、
すべてが実話である。

FFIと平行して、
18世紀のヨーロッパで大流行した「スクレイピー」、
パプア・ニューギニアの「クールー」、
そしてまだ記憶に新しい「狂牛病」といった奇病についてレポートし、

一見無関係なこれらの病気が、
ウィルスや最近ではなくタンパク質が原因で引き起こされるという、
通常の病気とは大きく異なる共通の性質をもっていることが、
少しずつ明らかになってくる。

このあたりは、まるでじわじわと犯人を追いつめていく、
探偵小説のような面白さがある。

けれど、最後は犯人が捕まる探偵小説とは違い、
これらの病気が悲劇的なことは、その治療法が確立されていないことである。

そしてもうひとつ、
これらのたんぱく質の異常について、遺伝子を遡って原因を探ってみると、

そこには太古の我々の祖先による食人の習慣が、
どうも大きく関係していたらしいという衝撃の事実が明らかにされる。

また、政府による対応の遅さ、
研究者同士の確執、製薬会社の都合、といった、
医療現場の裏側の実態についても赤裸々に書かれていて、

ひとつの病気に端を発した壮大なレポートにぐいぐいと引き込まれ、
早く先を読みたい気持ちを抑えきれなくなる。

これぞまさに、一流のジャーナリストによる力作だろう。