映画「神のゆらぎ」

 

2014年のカナダ映画。

おそらくはモントリオールが舞台で、
台詞はすべてフランス語となる。

劇中の時制は大きく2つに分かれていて、
その2つの時間のズレと、何組かの人物たちのドラマとが巧妙に組み合わされて、
なかなか見応えのあるヒューマンドラマに仕上がっている。

冒頭でいきなり飛行機事故が発生し、
乗客1人以外、全員死亡するという惨事となる。

その生き残った1人が運ばれた病院に勤める看護師の女性は、エホバの証人。

結婚を控えた彼氏も同様に信者であり、白血病を患っているものの、
信仰上の理由から病院へは行かない。

生死の境を彷徨う、飛行機事故の生き残りの男と、
このままでは余命わずかなフィアンセ、

二つの「命」と信仰との板挟みに苦しむ看護師の女性の話が、1つ。
(これが現在時制である)

そして、その墜落したキューバ行きの飛行機に乗ることになる、
不倫、ギャンブル、アル中などの、
生々しく、ある意味人間臭い問題を抱えた人物たちの複数の物語がひとつ。
(これが過去時制である)

あたかもxy平面上の複数の点がひとつの放物線で結ばれるかのように、
二つの時間軸にプロットされたそれぞれの物語が紡がれてゆく脚本は、
見事という他はない。

原題の「miraculum」は「奇跡」という意味であるが、
この物語では「奇跡」は起きない。

過去時制の物語に待っていたのは凄惨な飛行機事故であり、
(生き残ったひとりも、結局は死亡する)

現在時制の物語に待っていたのは、神の不在である。

言ってしまえば、まったく救いようのない映画ではあるのだけれども、
感慨深くはあるものの、それほど暗い気持ちにならないでいられるのは、

おそらくはラストシーンにおける、
看護師の女性による信仰との決別が、
一種のカタルシス的な効果を生んでいるからであろうか。

ちなみに邦題の「神のゆらぎ」というのも、キライじゃない。

「ゆらぎ」というと本能的に量子力学を想起してしまうのだが、
飛行機事故へと集結するそれぞれのドラマが、
まさに量子力学における波動関数の収束のように思えてきて、

狙ったのかどうかは分からないけれども、
そこも考えさせられるポイントになっている。

しみじみと人生の意義を見つめ直したいときにオススメの一本。

適正価格(劇場換算):1,900円