「古典遊歴」(前田 速夫)

副題は、「見失われた異空間(トポス)を尋ねて」。

イザナキの黄泉の国行きから始まり、
日本の古典文学はまさに異空間(トポス)から出来ているといってもいい。

異空間というと大袈裟かもしれないが、
要するに日常と違う空間(場所)だと思えばいい。

歌枕はまさにトポスそのものであり、
だからこそ実方が「歌枕見てまいれ」と帝から言われたことが、
そのまま流刑を意味するのであり、
西行や芭蕉といった隠者が、歌枕にこだわった理由もそこにある。

我が国を代表する古典作品の中に現れるそのようなトポスについて、
ひとつひとつ検証していくというのが本書の概要。

大学の教養学部の授業を聞くようで、
何となく懐かしかった。

でも後半は、トポスについてというよりも、
作品そのものの解説に陥ってしまっている感がないわけでもないが、

しかしそれは、真の意味での古典は、
「平家物語」までだということを思えば、
仕方のないことかもしれない。

江戸時代のトポスは、
古典の文脈では単純に語れないと思う。

なぜなら急速に都市化した江戸そのものがトポスとなってしまい、
そこにさらなる異次元が口を開けることになるからである。

それを如実に表しているのが、
例えば鶴屋南北の「東海道四谷怪談」であり、

または数々の風俗を生んだ吉原という土地そのものが、
都市の中の風穴だったのではなかろうか。

ただここまでいくと、
もはや文学の範疇には収まらず、
都市論・文化論として語らなければならないだろう。

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