「三角館の恐怖」(江戸川 乱歩)

本当はロジャー・スカーレットの、
「エンジェル家の殺人」を読みたかったのだけれども、

kindle版が出ていなかったので、
その翻案であるこちらの作品を読むことにした。

一番の興味の的だったエレベーターの密室殺人のトリックも、
第一の殺人のトリックも、そして犯人についても、

(自慢ではないが)分かってしまった自分としては、
それほど感銘を受ける内容ではなかったのだけれども、

築地の川沿いの洋館を対角線で区切った「三角館」の雰囲気や、
両家族の骨肉の争いや複雑な人間関係など、

これぞ乱歩ワールドという独特な雰囲気については、
十分に堪能できた。

特に、挿絵がなくても、
三角館の内部の様子や、その薄暗く澱んだ空気までもが、
鮮明に脳裏に浮かぶかのような文章術は、
流石としか言いようがない。

逆に自分としては、
原作を読んでがっかりするのが厭なので、
このまま原作は読まないことに決めた。

「三角館」は「三角館」のままでいい。

あと、途中途中で作者が「読者諸君!」といってカットインしてくるのも、
嫌いじゃない。

推理小説なんてものは、
そもそもの設定として、読者は作者の頭の中で遊ばされているわけで、

最初から「これは小説なんですよ」というスタンスで、
作者が読者に話しかけてくるのは、

なぜか純文学では見られない手法なだけに、
楽しくてしょうがない。