「あなたの人生の物語」(テッド・チャン)
映画を観て、その原作を読みたいと思うことはほとんどないが、「メッセージ」だけは違った。

その原作である「あなたの人生の物語」を含めた、
同一作者による8つの中短編が収められているのが本書。

どの作品も深い科学的な知識に支えられた、
真の意味での「SF」といえるものだが、

やはりタイトル作品は映画を観たこともあり、
出色の出来映えだと思われる。

小説を映画化するについては、原作ファンからの賛否両論の声が多くあがり、
その大部分が「否」であって、
この作品もその例外ではないようだが、

映画を先に観て、(自分的には)客観的に判断してみると、
この作品については、映画によって原作の真意が、
さらに上手く表現されたとは言えないだろうか。

ただひとつ大きな不満を挙げるとすれば、
原作では「変分原理」の説明を丁寧にしていて、
その「変分原理」こそが、宇宙人たちの考え方のベースになっていることに気付くわけだが、

映画ではそのくだりがカットされて、
代わりにもっとポピュラーの物理現象に翻案されており、

そこが勿体ないというか、大胆というか、仕方ないと捉えるか、
評価をするにあたっての大きなポイントとなるだろう。

その他にも、当然映画の尺に合わせるために、
蛇足的な部分はいくつもあったが、
けれど概ね、原作の雰囲気を壊すものではないと思った。

他の収録作では、「理解」「顔の美醜について」あたりが、
個人的にはお気に入り。