「百鬼夜行絵巻の謎」(小松 和彦)
例えて言うなら、「この魚は刺身にしたら
最高なのに、なんで天麩羅にしちゃうかね?」といった感じ。

要するに、「百鬼夜行絵巻」という最高の題材なのに、
調理法を間違えたな、と。

印刷というものがなかった時代、
書物や画は「模写」されるのが通常だった。

例えば源氏物語なんかは、分かりやすい。

おそらく紫式部が書いたオリジナルというのはごく一部だったはずで、
それを創作能力がある人が模写するたびに、
サイドストーリーを挿れたり、
ディテールを書き加えていったのではないだろうか。

ましてや「妖怪図鑑」ともいうべき「百鬼夜行絵巻」であれば、
少なくとも模写する人はそれなりの絵心があるはずであるから、
模写されるたびに、何らかの創作が混入した
と考える方が自然というか、当たり前のことだろう。

しかしながらこの本では、
「Aという版とBという版は、鍋の妖怪の取っ手部分に違いがあるから・・・」
というようなテクスト学的なアプローチによる成立年代の確定、
という作業に大半を費やしてしまっており、

残念ながら妖怪たちが踊り、騒ぐ、
作品としての「百鬼夜行絵巻」の魅力にはまるで迫っていない。

つまりこの本のタイトルになっている「謎」というのは、
あくまでも「いつ成立したのか」という意味での「謎」なのであって、

それって専門家が論文で書けばいいだけのことだよね
というのが率直な感想。

「日本人の想像力と創造力って・・・凄い!」という、
帯に書かれた宮部みゆき氏の書評が、笑えた。

だってそれは「百鬼夜行絵巻」に対する感想であって、
この本に対する書評じゃないじゃん・・・。

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