先日、僕より先輩の方が、
「何か小説を読んでみたいんだけれども、なにか良いものはないですか?」
とたずねてくるので、
「まずは短編なんてどうでしょう」と答えてみたら、
「短編では読んだ気がしないのです」とのことで、
成程そういう感じ方もあるもんだ、
と酒の席ながら妙に記憶に残った。
そういう自分も、
実は10代の頃に名作と呼ばれる小説を読み耽ったのをピークとして、
最近ではごく稀にしか小説を読まない。
だから今回紹介するアンソロジーに収められている作家も、
全然馴染みのない方たちばかりで、
城山三郎・円地文子・吉行淳之介・井上靖・小松左京ぐらいは、
かろうじて1作ぐらい読んだことあるかな、という程度。
あとは名前すら知らなかった作家もいる。
どちらかというと「ライトな」作品ばかりが収められているので、
スイスイ読めてしまう反面、印象に残りづらい。
そんな中でも、強烈な印象を焼き付けていったのは、
吉村昭の『少女架刑』という作品。
主人公の「私」はすでに死んでいる。
死体の立場から、悲しむ人々や解剖の様子などを淡々と語り、
最後は火葬され骨片となって骨壷にしまわれ、
棚に保管される、という話。
死者の立場から語る、という状況設定も面白いのだけれども、
それを飽くまでも淡々と、
死者だから感情がないという前提なのかもしれないが、
憎いばかりの客観描写で綴り、
しかし最後には、骨の軋む音しかしない静寂の世界に放置されるという、
そのラストが何かぞっとするのだ。
こういう作品は、長編だと絶対飽きるし、
そもそも何故死者に意識があるのか、
なんてことにも一通りの理屈をつけたくなってくる。
それが短編だと、細かいことは無視して、
あれよあれよという間に、物語をクライマックスまで突入させることができる。
ということで、短編の醍醐味を味わうには、
わりと手ごろな一冊。