幽霊や妖怪が、まだ人間と共存していた頃の話。
『藤岡屋日記』によれば、19世紀の江戸で、
「幽霊星」なるものが流行ったという。
うっかり夜空を見上げてその星を見てしまおうものなら、
命を落としてしまうという何とも恐ろしい星なのだが、
さらに奇妙なことには、その星が位牌の形をしていたという。
天上致して星となり、人の形より位牌の形ニなり幽霊星と申候
位牌の形の星というのは想像もつかないけれども、
今でもたまに星雲や銀河の写真をみると、
気味の悪い形状をしているものがある。
子供の頃に、よくプラネタリウムで、
そんな醜悪な天体の大写しをされるとぞっとしたものだが、
このくだりを読んだときに、
その頃の感覚に近いものを感じてしまった。
西洋では、星座にロマンチックな形を当てはめるのが流行していたが、
我が国では位牌に見立てるなんて、
思わずニヤリとしてしまうような江戸のセンスである。