能、特に夢幻能というのは、
立体的構造が顕著な芸能である。
大抵は旅人である僧侶などが、
日常とは異なる場所で、異界から訪れた霊と出会う・・・・
そのような空間的・時間的な立体感はもとより、
その謡や物語に詰め込まれた古代和歌をベースにした文化的立体感、
という意味もある。
冷静に考えるとそれは異常な世界なわけで、
そのような特殊な設定に観衆が同化するのは難しい。
そこで、その異常な世界と日常(=観衆)との橋渡しになるのが、
「ワキ」という存在だ。
「ワキ」は「脇」というよりも、
「分き」、すなわち物事の道理を切り分けてその姿を明らかにさせること、
という意味の方が強いのであろう。
そんな「ワキ」の視点を通して、簡潔な文章で、
能の立体的な魅力を紹介してくれるのがこの本だ。
こういう、日本人のDNAをくすぐってくれる本は、
いつまでたってもやめられない。