娯楽と芸術。
一見正反対のように感じるこれら2つが同居しているのが、
イタリア・オペラである。
ジャコモ・プッチーニの「トスカ」。
これほど世俗臭の強い劇を、
ここまで美しい作品に仕上げられるのは、
神業以外の何物でもない。
特に第3幕。
僕は今までこの幕は退屈で仕方がなかった。
しかし今回Liveで聴いて、それは間違いだと分かった。
幕が開いてからしばらくの、
浄瑠璃でいう道行にも通じるあの緊張感。
美しくドラマチックな二重唱。
そして劇的なラスト。
オペラ全体の起承転結の中にさらに起承転結を持たせるシナリオと、
絶妙なオーケストレーションに支えられたこの第3幕は、
まさにオペラ史上の奇跡といっても過言ではあるまい。
登場人物全員が死亡するという、
悲劇のラストを飾るにふさわしい幕であろう。
スカルピア役のバリトンは若干迫力不足、
カラヴァドッシ役のテノールは可もなく不可もなくといったところだったが、
トスカ役のノルマ・ファンティーニは、
一声聴いた瞬間に、艶・張りのある美声の虜になった。
オーケストラも、さすがは国家の威信とプライドをかけた、
ナショナル・オペラである。
特に音色の美しさは特筆すべきで、
この悲劇の魅力を引き出すのに十分な役目を果たしていた。
久々に「もう一度観たい」と思わせてくれるエンターテイメントだった。