著者が選んだ、20世紀の偉大なるピアニスト10人の伝記である。
紹介されているのは、
ラフマニノフ/コルトー/シュナーベル/バックハウス/ルービンシュタイン/アラウ/ホロヴィッツ/ショスタコーヴィチ/リヒテル/グールド
の10人。
すでに故人であることが条件だというから、
この選出には、個人的には、それほど異論はない。
ほぼ同じ時代を生きたわけなので、
当然ながらそれぞれのエピソードは交差する。
だから編年体の形で書かれていることには大いに共感できるし、
別の言い方をすれば、
「10人のピアニストの生き方からみた20世紀の歴史」を描いた本だとも言える。
大戦中の活動の制限、レコードの登場、
ナチとの確執、新しいアメリカというマーケット、戦後の冷戦・・・etc.
20世紀に生じた文化的・政治的な変革の波に、
10人の天才たちがどのように翻弄され、生き抜いたのか。
簡潔の記述の中にも、
芸術家としての熱い人生を読み取ることができると思う。
紹介されている10人の中でも、特に印象深かったのは、
友でもありライバルでもあった、
ルービンシュタインとホロヴィッツの2人。
それは僕がこの2人の録音を、
10代の頃から好んで聴いていたせいもあるのだが、
全く生き方の異なる2人の「職人」の演奏に対する接し方が、
とても興味深かった。
そして最後に、読み終わったあと、
これら10人の天才たちは既にこの世にいないのだという寂しさを、
あらためて感じさせられた。