そもそも従軍日記なるもの自体が興味深いのだが、
それが久生十蘭のものとなれば、尚更である。
僕は別に、俗に「ジュウラニアン」と呼ばれるほどの久生十蘭好きではないが、
彼の文章から漂う、形容しがたい気品のようなものに、
ある種の尊敬を以って接することができるつもりでいる。
だからこそ、その十蘭の「従軍日記」が、
どのようなストイックな軍隊生活について綴ってくれているのかが、
気になって仕方がなかったのだ。
前半部分を読んでみて、唖然とした。
というよりも、十蘭もまたひとりの男であるのかと、
安心した。
そこに描かれた日々は、麻雀、酒、女…といった、
俗物の連続でしかなかった。
日記中でも彼自身が、
どうしてここまで堕落したものかと嘆いているぐらいだ。
後半になると、前線へ移動したこともあり、
さすがに日記の緊張度合は急に高まってくる。
「従軍日記」としての価値は後半の方が高いのであろうが、
「人間・十蘭」を知るという意味では、
前半の方が圧倒的に興味深いのである。