古代の説話を読むと、
かつての日本人はいかに宗教と共にあったのかが、
よくわかる。
「日本霊異記」は仏教説話集そのものだし、
古代説話の集大成ともいえる「古事記」は、
神話がその根幹をなすものだし、
そしてこの「今昔物語集」も、
神仏の霊力を民衆に知らしめることが、
主たる目的の一つであったことは、疑いがない。
日本人の宗教心が希薄になった(少なくともそのように見えるようになった)のは、
寺社を徹底管理し儒教を教育の根本に据えた、
江戸幕府の施策が一因だと思うのだけれども、
そうなる前の、
自然こそが神であり、念仏を口ずさむだけで極楽浄土を目指せた、
「宗教にとっての古き良き時代」の説話は、
今読んでも十分新鮮で、
芥川龍之介が近代小説として甦らせたくなった気持ちも、
十分理解できる。
キリスト教のように無理に偶像を禁止することなく、
むしろ仏像や御経そのものまでが活躍する物語は、
当然バリエーションも豊富であり、
溢れんばかりの創造力が伝わってくる。
「今昔物語集」とは、そんな魅力的な書物である。