北斎のように色々な逸話が残っているケースは稀で、
江戸の絵師なんてものは身分がかなり低かったため、
生前の記録のようなものはほとんど残されていない。
美人の大首絵では右にでるものはいない喜多川歌麿の、
分かる範囲での人生の軌跡と代表作をまとめたのがこの本。
北斎や写楽とも違って、ひたすらに女性を描き、
その美を追求しつづけたというのは、
世界の美術史から見ても、珍しい存在かもしれない。
西洋にはヴィーナスやマリア信仰という、
女性を聖なるものとする基盤があったが、
歌麿を衝き動かしたものは、なんだったろう。
もしかしたら観音様かもしれない、と、
彼の描く端正な美人顔を見て、ふと思ったりする。