即身成仏や文字と実体の関係など、
真言密教の核となる思想について、
経典を引用しながら空海が解説するという、
古代の思想書ともいえるべき著作。
これにさらに、編者の解説をプラスしたのがこの本で、
正直、僕には理解しきれない部分も多々あるのだが、
思想家としての空海の凄味は、十分堪能できる。
平安最初期のこの時代に、宗教論の枠を超えて、
物質論、言語論、テクスト論にまで踏み込んだ思想家は、
世界でも類を見ないだろう。
旧仏教側からすれば、このような空海の言動は、
かなりラディカルに捉えられ、
過激な新興宗教のように思われていたに違いない。
旧仏教における、「仏」の立場の曖昧さを否定し、
大日如来という「絶対仏」を明確に打ち出す真言密教というのは、
やはりインド以西の一神教の影響を受けていることは間違いない。
キリスト教が西欧世界の支配者に採り入れられていったように、
仏教も日本の朝廷において「鎮護国家思想」として利用されていくわけだが、
その過程で、この「絶対仏(大日如来)思想」により、
それがどのように変質していったのかは、
非常に興味があるところだ。