時とエントロピーとには、
双方ともに「不可逆」という重要な性質を有しているものの、
果たして両者がどのような関係にあるのかは、
現代科学でも明確な解答を出せていない。
寺田寅彦も、このことについての結論は避け、
今後の科学にとっての重要な課題である、と述べるにとどめている。
この随筆中で特に注目したいのは、
浦島太郎や冬眠中の動物の例をあげて、
エントロピーと心理的な時間経過についての関係を考察している部分である。
寅彦は、あくまでも通俗的なたとえ、として深入りはしていないが、
なるほど、一考の余地はあるかもしれぬ、と思わせてくれる。