19世紀後半、ドイツのリッター教授によって作られ、
ワーグナーにも愛されたという大型のヴィオラ、「ヴィオラ・アルタ」。
現在はヴィオラやヴァイオリンで弾かれている曲でも、
実は本来はヴィオラ・アルタ向けの曲だということも、結構あるらしい。
この本を読むまで、僕はこの楽器の存在を知らなかった。
プロのヴィオラ奏者であるこの本の著者ですら知らなかったのだから、
それも仕方あるまい。
渋谷の弦楽器店で、偶然にこの楽器を見つけたことから、
この本のストーリーは始まる。
何の手がかりもないところからこの楽器の名前を調べ、
そしてこの楽器の生まれ故郷であるドイツへ飛び、
その知られざる歴史を紐解いてゆく。
著者の音楽への、とりわけこの楽器への愛情がストレートに伝わってくる名著だと思う。
何も飾らず、衒うことなく、読み手の心を動かす文章を書けるというのは、
やはり音楽家であるゆえだろう。
この本を読み終わったとき、当然ながら、この「ヴィオラ・アルタ」の音色を聴きたくなった。
幸いにも、著者自身の演奏録画が、youtubeにいくつかUPされている。
その中から、この本の中でも登場する、成田為三作曲の「浜辺の歌」を貼っておこう。
日本の唱歌とヴィオラ・アルタの絶妙な取り合わせに、思わず聴き入ってしまう。
ヴィオラの、あの独特の鼻にかかったような音色ではなく、
かといってヴァイオリンのように垢抜けてもいないし、チェロほどの厚みもない。
ただ、一度憑りつかれてしまったら、
そうそう離れられない魅力を持っているということは、十分理解できる。
それにしても、こうして聴くと、いい曲だなぁ、「浜辺の歌」。