いかにもイタリア人!という団員たちと、
厳格なドイツ人指揮者とが対立する
リハーサル風景を描いた、
フェデリコ・フェリーニの名作。
この作品から、政治的な匂いを嗅ぎ取ろうとする見方もあるようだが、
それは野暮というものだろう。
だってオーケストラという枠組み自体が、
絶対君主(=指揮者)と、民衆(=団員)の構図そのものなのだから。
僕としては、この映画でフェリーニが描きたかったことは、
人間の「狂気」なのだと思う。
生意気な指揮者を排斥しようとする、団員達の狂気。
そしてそれを一旦受け入れたかのように見えつつも、
結局は自分の世界に戻ってしまう、指揮者の狂気。
言い換えれば、それは、音楽が、
そして芸術がもっている狂気なのではないだろうか。
あたかも、芥川龍之介の「地獄變」のような、
芸術のために狂気にまで身を落とす人の悲劇、である。
音楽は、現代クラシックの巨匠、ニーノ・ロータ。
既存の名曲ではなく、オリジナルの曲を使ったことで、
間違いなく1つも2つも、この映画の価値は上がっている。