「スリランカの赤い雨」(松井 孝典)

 

以前、松井先生の地球の形成についての本を読んだときに、
感動した記憶がある。

あの論の中でメインだったのは、
太古の地球に降り注ぐ隕石に含まれていた水分が海を形作ったのであり、
その量が、現在の海の水量と計算上ほぼ一致する、というもの。

地球は「宇宙に向けて開かれた系」として扱わなければならない、
という考え方は、
第一線の惑星科学者の発言として強烈な説得力があった。

一方、この本で松井先生と対談しているウィクラマシンゲ氏は、
異端の天文学者フレッド・ホイルの弟子であり、
生前のホイルとともに、生命は宇宙から来たとする「パンスペルミア説」を唱えている学者だ。

この本の前半は、インドやスリランカに降った赤い雨の色の正体は、細菌であった、
という調査結果の報告で、
後半は、松井先生とウィクラマシンゲ氏の対談となっている。

パンスペルミア説によれば、隕石や彗星に細菌・ウィルスが含まれているだけでなく、
地球上に毎日大量に降り注いでる「宇宙塵」にも最近は含まれていて、
それらは流行病を引き起こしたり、宿主の遺伝子を操作することで生物進化の原因にもなっているという。

細菌やウィルスが宇宙空間でも長時間生存できることは、よく知られた事実でもあるため、
宇宙からやってきたものがあっても不思議ではない。

ただ、それがダーウィンの進化論を否定できるレベルで、
生物進化の積極的原因になっている、とまでは、個人的には信じられない。

確かに、なぜ地球上にはこれほどまでに多くの「種」がいるのか、については、
進化論だけでは説明できないようにも思う。

昔、どこかのオカルト信者が、種が多いのは、地球が宇宙人の実験場だから、
みたいなことを言っていたけれど、
パンスペルミア説も、宇宙のどこかにいる知的生命体が細菌をばら撒いて自分たちのコピーを作成している、という考えを含んでいるため、
オカルトにつながる危うさを多分にもっている(だから、「正統な」学者からは見向きもされていない)。

どこからが学説で、どこからがオカルトなのかという線引きは非常に難しいが、
生命の誕生が実験室で再現できていない現状としては、
生命は宇宙からきた、とするパンスペルミア説自体は、僕は支持したい。

ただそれでも、ではどこから、どうやって生命は飛来したのか、
そもそもその生命自体は誰がどうやって作ったのか、という疑問は依然として残る。

それを、別の知的生命体が、、というところまで踏み込んでしまうと、
オカルトというかSFの領域になってしまうのだろう。

来年以降、彗星の内部についての精密な調査が行われることになっている。

その結果次第では、パンスペルミア説が脚光を浴びることになるかもしれない。