作家・村上春樹による、2010年~2013年にかけての、
指揮者・小澤征爾へのインタビューに、
村上による回想が追加された一冊。
正直、村上春樹の文章というのは、
これまで一行たりとも読んだことはなかったのだが、
なかなか魅力的だし、何と言っても音楽への造詣が深い。
この本の中に、自分が文章をここまで書けるのは、
音楽を知っているお蔭である、
音楽のリズムが、文章にリズムを与えてくれる、
という村上の言葉がある。
これを読んだとき、ふと浄瑠璃における、
語りと音楽の関係が頭をよぎり、
何の疑問もなく、ああなるほどな、と思った。
けれど、マエストロの反応は意外で、
え?音楽と文章って関係あるの?ちょっと理解できない、、
というものだった。
それが是か非かという問題ではなく、
世界を代表する指揮者でさえ、このような反応を示すというところに、
西洋音楽と東洋音楽の、大きな違いがあるように感じられた。
それはさておき、この本の一番の魅力は、
小澤自身によって語られる、
カラヤン、バーンスタイン、グールド、ベームといった巨匠たちの、
音楽に対する姿勢、考え方だ。
まさに「生き証人」といった形で、偉大なる演奏家たちの、
裏の一面までをも含めた、魅力を語ってくれている。
さらには、ベートーヴェンのピアノ協奏曲3番、ブラームスの同1番、
マーラーのシンフォニーなど、具体的な作品についてとことん語ることで、
指揮者という存在が、どのように音楽を把握しているのかを、
鮮明に浮かび上がらせている。
作家と音楽家の対談、という意味では、
以前、吉本隆明と坂本竜一の対談を興味深く読んだが、
あちらがやや観念的であったのに対し、
こちらはとにかく具体的で、
音楽に対する情熱のようなものが、
ひしひしと伝わってくる内容だった。
音楽好きであれば、ぜひとも読んでおくべき一冊である。