以前の仕事の関係で、養老先生の本はすべて読んでいたので、
今回、新作が出たということで買ってみた。
相変わらずの「養老節」というか、
シニカルな言い回しの中に、とてつもない真実があるというような、
それでいて文章は極めて平易、
他の人には真似できない、独特のリズムをもった文章である。
海外の墓地を巡り歩き、
解剖学者の視点から、生と死、心と身体について語り、
そこからさらには、文化論、宗教論、民族論といった分野にまで拡がる、
まさに養老ワールドな一冊だ。
養老先生の特徴として、大切なことであっても、長々と語ることはしない。
ボソッ、と一言いって、あとは自分で考えなさいよ、こういうスタンスである。
だから彼の文章から、どれだけのものを拾えるかは、
読む側の知識や経験によって大きく異なってくる。
他のいわゆる知識人と呼ばれる人たちとは、一線を画した視点を持っているので、
もうご高齢ではあるけれども、一冊でも多くの書物を残していただきたいと思っている。
墓場とはそもそも何なのか、
日本における墓と西洋における墓に、違いはあるのか、
墓とは一体、何のためにあるのか、
生きていながら墓について考えるというのも、おかしな話だが、
でもよく考えてみれば、死んでしまえば墓だろうが何だろうが(おそらくは)関係ないので、
結局、墓場というのは生きている側のためのものということになる。
あと、日本のような狭い国土で、人が死ぬたびに墓を作っていたら、
そのうち墓だらけになるのではないか、というおかしな心配も出てくる。
未来の日本では、住宅事情以上に、墓場問題の方が大きくなっていたりして。
この奇妙な「墓」という存在が、養老先生の目にとまらぬはずがない。
続編があるようなので、そちらも期待したい。