「宇宙論大全」(ジョン・D・バロウ)

 

海は~♪広いな~♪大きいな~~♪
かもめ~は飛ぶし~♪なんちゃらかんちゃら~♪

みたいな唱歌があったと思うのだけれど、
あののびのびとしたメロディラインは、
海の広さというものをうまく表していて、よくできた歌だと思う。

海は、広い。
では、宇宙は??

直感的に答えれば、「広い」。

でもなぜ広いって言えるの??
自分の部屋と比べて?ネコの額と比べて?

そういわれると、広いとかデカいというのは、相対的な感覚で、
「○○平方メートルより広ければ、それは広い」みたいな、絶対的な基準は存在していないように思う。

この本には、面白いたとえが書かれている。

A4の紙を、半分に折るという作業を続けていくと、30回繰り返すと原子の大きさになる。
逆に、倍、倍に大きくしていくと、90回繰り返すと、(観測できる範囲の)宇宙の大きさになるというのだ。

これを聞いたときに、宇宙を狭いと思うか、それとも広いと思うか。

最終的には判断する人の感性によるしかないのだが、
宇宙というものが、どれぐらいの時間をかけてどのように形成されたのかを知れば、
その判断は多少は変わってこよう。

アインシュタインの方程式から求められるありとあらゆるタイプの宇宙と、
それらが辿ってきた(そして、今後辿る)シナリオについて、見事に一冊にまとめたこの本は、
さすがは、ジョン・D・バロウだと言いたくなる。

科学関連の本を読むときに、どうしても結論だけを知りたくなる。
しかし、結論の底には、試行錯誤しながら捨てられてきた先人たちの発見があるわけで、
そのいわば「忘れられた宝物」を、宇宙論という分野で甦らせたこの本の価値は計り知れない。

天体物理学の研究は急速に進んでいるので、
我々の宇宙がどのように誕生して、これからどうなるのかについて、かなりの部分、判明してきた。

通常の解説本であれば、そこで満足するだろう。

この本には、その先の考察までも、きちんと含めてある。

宇宙の正体が分かったとしたところで、なぜ我々はそのような宇宙にいるのか。
逆に言えば、なぜ宇宙は、我々が存在すべくファインチューニングされているように見えるのか。

興味を持った人にはぜひ読んでいただきたい。
科学の素晴らしさを実感できる良書である。