作曲家サティによる文章をまとめた一冊で、
邦訳は、サティ研究の第一人者である、秋山邦晴。
僕にとっては、ドビュッシーやラヴェルよりも、
サティこそが、もっとも「フランス音楽」ぽいのであって、
それは絵画の世界では、
セザンヌやモネよりもロートレックがそうであるのと同じである。
サティという人は、詩人なのだろう。
彼の中の詩情や思想を、
音符の形で表現するのか、文章の形で表現するのか、
要するに手段の違いだけであって、
彼の文章と音楽は、完全に表裏一体である。
中でも、「哺乳類の手帖」と題された、
現代でいう「つぶやき」をまとめたようなエッセイ集は、なかなか傑作で、
その中から、下記の一節を紹介しよう。
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ある男が、素晴らしいワインを褒めもせずに飲んでいた。
店の主人が、安物のワインを出したところ、
その男は、「これはいいワインだ」と褒めた。
店の主人が、「それは安いワインですよ。先程のは高級でずが。」
と言ったところ、その男が言うには、
「わかってるよ。だからさっきは褒めなかったんだ。
褒められるのを必要としてるのは、安い方のワインなんだからね。」
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