寺田寅彦は好きで、著作を随分と読んだが、
今回、その弟子による師の言動の記録を読んだことで、
寺田ワールドの魅力がさらに深まった気がする。
一流の学者になってしまうと、
見向きもしなくなるような事象について、
鋭い洞察力で敢えて切り込んでいったのが、
科学者としての寺田寅彦。
そしてそれを、平易で魅了的な文章で描いたのが、
文筆家としての吉村冬彦。
弟子である中谷宇吉郎も、
師と同じく、物理学者でありながら文章をよくした人で、
この本を読むと、寺田の文章・文体に非常によく似ていると思う。
同じ寺田寅彦の考えていることであっても、
本人が文章で書いたのと、その弟子が言動を記録としたのとでは、
だいぶ印象が違う。
後者の方が「生々しい」という点で、
貴重であり、読む側としても興味をひかれる部分も大きい。
何事も専業化・細分化が進んでしまった今の時代には、
もう寺田寅彦のような存在は現れないのだろうか。
その意義について、いろいろと考えさせられる本でもある。