100年ほど前に絶滅したリョコウバトを、
最新のDNA研究により甦らせるプロジェクトが、着々と進行しているという。
その一方で、アフリカではエボラウィルスと闘い、
東京都では、デング熱ウィルス、そしてその媒介主である蚊までもが、
駆除の対象となっている。
さらに、イルカ・クジラ漁をどうするのかという問題。
これらすべては、「我々ヒトは、自然とどう付き合うべきか」というテーマで、共通している。
そもそもヒトは、もともとは、狩猟・採集・漁労で生活するという、
他の動物と変わらないスタイルをとっていた。
それがいまから約1万年前、劇的な変化が生じる。
農業と牧畜を覚えたことにより、
それまでの「自然の一員である」というスタンスから、「自然を使いこなす」という生き方に、
大きくシフトしたのである。
そこから一気に、産業革命を経て現代のような状況になったことは、
必然だったといえるだろう。
その間、我々ヒトは自然を征服することに時間と労力を費やしてきたが、
ここ100年ぐらいの間でようやく、そのようなスタイルへの反省、
つまり「今まで征服してきた自然を、逆に保護する」という考え方が生じてきた。
しかし1万年前に始まった文明が、そもそも自然の征服を前提としていたので、
それを今さら覆そうとしても、あらゆるところで問題が生じるわけである。
だから苦し紛れに、
自然のイルカやクジラを捕えるのは罪だが、飼いならした牛や馬を食すのは罪ではない、
というような、言い訳にしか聞こえないような言説が生じるのも、無理はない。
つまりは、自然との付き合い方が非常に難しい時代になってきた。
そのひとつが、ウィルスの問題だと僕は思っている。
ヒトのDNAを調べてみると、その何割かは、ウィルス起源のものだということが判明している。
生物の進化にもウィルスは一役買ってきただろうし、
ウィルスという存在が、地球の生命に欠かせないことは疑いない。
しかし一方で、エイズやエボラのように、ヒトの生命を脅かすウィルスもいる。
問題はそこである。
たとえば、トラやオオカミも、ヒトを襲う。
だからといって、トラやオオカミを撲滅しようといったら、ちょっと待て、となるだろう。
ではウィルスならよいのか。
それが爬虫類だったら、昆虫だったらどうなのか。
撲滅しても許される生物と許されない生物の境目はどこにあるのか。
今のところ、その境目は、ヒトが「自分の都合で」勝手に決めてしまっている。
そして一方で、リョコウバトのように、絶滅した生物を復活させようとまでしている。
ここに矛盾を感じているのは、僕だけだろうか。
最近話題のデング熱でいえば、蚊自体は別に悪いことは何もしていない。
しかし、ウィルスを持っている疑いがあるから蚊ごと殺してしまえ、
というのが、ヒトの論理である。
これは果たして正しいのだろうか。
約5億年前のいわゆる「カンブリア爆発」で多様な生物が誕生して以来、
現在まで、その9割以上の種は絶滅している。
つまり、悲観的な言い方をしてしまえば、永続する種などなく、
どんなに栄えた生物でも、いつかは滅びる運命にあるということだ。
それはヒトも例外ではない。
サピエンス種以外のホモ属が、すべて滅びてしまったことからも、
我々が永続するなどという保証がないことは明らかである。
ただもしかしたら、ウィルスだけは例外なのではないかと思う。
普段は死んだフリをし、ひとたび宿主に寄生するや、
爆発的に猛威を振るうあの生命力、
おそらくはウィルスこそが地球最古の生命であり、
そしてそれは、彗星に潜んで宇宙の過酷な環境をくぐり抜けてきた、
最強の生物である可能性もある(というか、最強・最恐な存在であることは医学の歴史をみても明らかだ)。
そして、ウィルスという奴らは、相当賢い。
エボラやエイズを克服できても、次なる脅威はすぐにやってくるだろう。
地球の歴史の中で、生物の大絶滅は過去5回あった。
だがその原因として、ウィルスを挙げる学者はほとんどいない。
しかし、今から100年ほど前のスペイン風邪で数千万人のヒトが死んだことを考えると、
ウィルスが種を絶滅に追い込むことは、十分にありうると思っている。
(手近な例として、僕はネアンデルタール人を挙げたい。)
今から300年前の東京(江戸)、そこは野良犬であふれていたという。
住人を襲う犬もいれば、そんな犬を食って病死する者もたくさんいたらしい。
そこで「犬公方」と呼ばれた将軍綱吉は、犬を保護するという策にでた。
世間一般では、犬好きな阿呆な将軍というイメージがあるが、とんでもない。
彼は江戸にあふれた犬の対処を行ったわけである。
いま同様に、我々がウィルスにどう対処するかということが本気で求められていると思う。
ハトの復活とか犬猫の殺処分とかイルカ漁とかの前に、
まずはウィルスという生物について知ること、これが一番重要だ。
「我々はどこから来て、どこに行くのか」
この答えは、ウィルスが握っていると、僕は(結構真剣に)思っている。
(リドリー・スコットは、それを地球外生命体とした。そこに共感したい。)