千秋万歳、猿楽、松囃子といった中世の芸能が、
被差別民とどのように関わっていたのか、
そしてさらに、皮づくりや葬送といった仕事と、
それを生業としていた人々の実情はどうだったのか。
政治史・文化史における「負の部分」をえぐることで、
日本の中世という難解な時代に、
別の面からアプローチしてみようという試みである。
江戸の芸能に興味がある自分としてみれば、
中世のさまざまな芸能が、どのような道筋を辿って、
近世へ到達し、例えば浄瑠璃のようなジャンルに吸収、変貌したのか、
という点に注目したのだけれど、
残念ながらこの本は、そこまで系統だった芸能史を語るものではなく、
被差別民の生活という視点がメインであり、
そういう意味では、若干期待外れではあった。
しかしながら、
果たして芸能に従事していた人々が被差別民であったのかどうかさえ、
結論は出ておらず、
そこにはおそらく解明困難な、かなり根深い問題があるのだろうが、
この本にあるような歴史観は、
近世の芸能を理解する上で、何らかの助けになることは間違いない。