政治・文化におけるactiveさという点では、
歴代天皇のうちで間違いなく十本の指には漏れないであろう、後鳥羽院。

そんな院が、鎌倉幕府打倒に失敗し、配流先の隠岐で書かれたとされるのが、
この「後鳥羽院御口傳」である。

従来より「歌論」として扱われる傾向が強いが、
むしろ院が思ったままを、感情的に綴ったエッセイ的な色合いが強いようにも思われる。

前半は、歌詠みが心得るべきことを箇条書きで挙げる。

万葉集を手本とすべきことと、
とにかく上達するまでは、歌題(テーマ)を設定して詠むこと、というのが、
非常に説得力がある。

これは歌道以外の分野にも、当てはまりそうである。

後半は具体的な歌人評になるのだが、
自ら面識のある近い時代の歌人が中心になっているせいか、院の口調はかなり感情的となり、
特に、定家に対する評は、羨望や嫉妬も入り混じった、
一人の人間としての後鳥羽院の心情が読み取れて、興味深い。

興味深いといえば、院なりの良き歌を評する形容(動)詞として、

「もみもみと」

という語を、三~四回も用いていることも挙げられる。

他にあまり多くの類例をみない語でもあり、
そういった点からも、この口伝のユニークさが感じられる。