漱石を読み直そうプロジェクトの第二弾。
「坑夫」は漱石の作品ではマイナーな方だけれども、
十代の頃、この小説が大好きで、今改めて読んでみても、
新鮮さは失われていなかった。
漱石という人は、
作家の視点(立ち位置)をどこに置くかということに関して、
ものすごくこだわった人だと思う。
つまり、いかに客観性を保ちながら、
人物に内面を語らせるか、ということを工夫していて、
それが結局は猫の視点になったり、
手紙や遺書の形で人物に語らせたりすることになる。
この「坑夫」でも同様で、
主人公は19歳の少年ではあるが、それを何十年か後の本人が述懐する形をとることで、
主観であるような客観であるような、
小説であるようなそうでないような、
絶妙のバランス感覚をもった作品に仕上げているのである。
前半は、自暴自棄になった主人公が、ポン引きに連れられて鉱山へ向かう道中を描き、
後半は、「地獄のような」鉱山での生活が中心となる。
主人公以外の人物は、どれもごくわずかの場面にしか登場しないのだけれども、
その描き方が、まるで彼らを目の前にしているかのごとくお見事。
(「赤毛布」=「あかげっと」などというネーミングも、いかにも漱石らしい)
また特に、主人公が、鉱山の底で死のうかどうか迷う場面、
ここまで簡潔な表現で、ここまで複雑な心情を綴ることができるのは、
やはり漱石という人は、ものすごい作家なのだと唸らされる。
学校を卒業したエリートともいえる主人公が、
社会の底辺である坑夫になって、周囲にからかわれながらも仕事に向かっていく、という内容は、
例えば就職活動に悩む大学生にも読んでもらいたいし、
職場の人間関係やこれからの仕事人生に問題を抱えている社会人にも、
オススメできる。
その他、要所要所に注目すべき個所が多い、かなり完成された作品だと思う。
漱石先生は、やはり偉大である。