「宇宙は自ら進化した」(リー・スモーリン)

 

科学界の最後の悲願である、
量子論と相対性理論の統合が未だ成し遂げられないという状況の中で、
その溝を埋めるべく、あらゆる宇宙論が提示されている。

この本もそのうちの一つなわけだが、
いわゆる「トンデモ科学」とは一線を画した、

一線で活躍する物理学者による「仮説」であり、
それの正否は差し置いても、読む価値はある。

著者の仮説とは、
この宇宙には明らかに負のフィードバックが働いており、
それはあたかも、生命体であるかのように「自己組織化」するものである、
というものだ。

この宇宙の物理定数が絶妙な値に収まっているということを考えると、
まぁ確かに、そういう考えもできなくはないわけだが、

残念なことに、実験による証明が不可能な説であり、
実証できないものは「学説」とは成り得ず、「仮説」のままとなる。

しかしながら、宇宙の真の姿を語るのに、
そもそも宇宙の中にいる我々に、
「正解の理論」をたてることは困難なのではないだろうか。

近年、ニュートリノの質量やヒッグス粒子の存在などが発見されて、
ノーベル賞受賞で話題になってはいるが、

おそらく、そのような局所レベルの事象とはかけ離れたところに、
真の宇宙論はある気がしていて、

「四つの力」のうち、重力だけが統一されていないということは、
とりもなおさず重力理論である、
一般相対性理論を見直さなければならない時期にきているのかもしれない。

天文学の分野では、最近特に太陽系天体での新発見が相次いで、
いよいよ新たなステージに入ってきたか、という状態ではあるが、
一方、宇宙論の分野においては、行き詰まり感があるのを否めない。

宇宙物理学の次のステージは、
おそらく、ニュートン物理学から相対性理論への飛躍以上の、
パラダイムシフトをもたらすだろうと思う。