「138億年の音楽史」(浦久 俊彦)

 

良い本だとは思うが、
あまり期待しすぎるとガッカリするかもしれない。

宇宙のはじまりはエネルギーのゆらぎだし、
量子論にせよひも理論にせよ、

宇宙の根本にはゆらぎ(波動)がありそうだというのは
ある程度確かなのかもしれないが、

百歩譲って、そこに「音」があったとしても、
それと「音楽」とを結び付けるのは短絡的だと思う。

現象としての「音」と、人工物としての「音楽」の違いは明確であり、
そこの差を埋めることが、
「音楽とは何か」を考える第一歩であるはずなのだが、

この本においては、「138億年の音楽史」とはいっておきながら、
内容の大半を占めるのは、音楽と人間との関わりについてである。

そういう、哲学的・社会学的、あるいは美学的な音楽へのアプローチは、
とりたてて新鮮というわけでもない。

ただ、いわゆる「音楽好き」が傾いてしまいがちなディテールへの言及を避けて、
大局的な眼で音楽を眺めようとしている姿勢は評価できる。

でもそれ以上ではない。

料理を語るためにはまずはその材料を知らなくてはならないのと同様、
音楽について考えるには、まずは「音」について徹底的に知らなければならない。

すなわち、「音」という現象の本質は何なのか。

同じく波動としての一面をもつ「光」とは何が異なり、
あるいはどこで分岐したのか。

「光」に対するエーテルのような、「音」を媒介する物質は想定されてこなかったのか。

仮に「音」を粒子であると考えた場合、何が破綻するのか。
それともその可能性はあるのか・・・などなど、

一見馬鹿馬鹿しいようなものでも、
実は「音」について即答できないことは、まだまだ多い。

音楽について本気で考えるのであれば、
そのレベルから考えたい、というのはあくまでも僕の妄想であって、
この本の主旨とは違うのかもしれないが、
「138億年の音楽史」と銘打つからには、そのぐらいのものを期待してしまう。

この本の内容では、せいぜい「千年の音楽史」といったあたりだろう。