幕末に日本にやってきた西洋人による、
下田の銭湯を描いた一枚の絵から、この本は始まる。
そこに描かれているのは、20人ほどの老若男女が、
恥ずかしがる素振りなど一切なく、文字通り堂々と、湯浴みをしている姿である。
江戸時代とはいえ、明治の文明開化のすぐ手前、
それでも日本は果たしてこんなに大らかだったのか、
それともこれは何かの間違いか、
そんなカンジで、いきなりこの本のペースに飲まれることになる。
それからわずか150年。
我々日本人が、いかにして「常識」という名の衣服を纏うことになったのかを、
文芸や絵画の資料をベースに、丁寧に解きほぐしていく。
現在の先進国の中では、
たしかに日本は「裸」というものに対してルーズであったのかもしれない。
それが江戸時代の春画や、現代のAVなどの、
「世界に誇るジャパンポルノ(!)」の源流であることは、
おそらく間違いないのであろう。
ただ不思議なのは、現代では江戸時代とは状況が逆で、
西洋人の方が、「ヌーディストビーチ」とか言って、
割と人目をはばからずに裸になるのに対し、
日本人はどうも羞恥心を捨てきれずにいる。
その逆転現象はどこで生じたのかまで踏み込めば、
裸をめぐる、長くて深い文化史が出来上がる気がしているのだが。
「お行儀のよい」文化史に飽きたら、たまにはこういう本も面白い。