最近、「スリラー」というジャンルをあまり聞かなくなったが、
要するに、ホラーほどエグくなく、サスペンスほど頭を使わない、
心理的切迫感というか、ドキドキ感を味わえる映画、ということ。
この「ノーカントリー」という作品が傑作といわれる所以は、
その典型的な「スリラー」の枠組みの中に、
テキサスという荒廃した(?)場所にもはやマッチしなくなった老警官の、
悲哀たっぷりの人生譚を重ねることで、
厚みのあるストーリーを形成しているところにある。
とはいえ、この映画のメインはやはり「スリラー」部分。
「スカイフォール」での怪演も記憶に新しいハビエル・バルデムが、
とにかくコワい、そしてキモい。
酸素ボンベを凶器として持ち歩くさまが、
その恐怖感を倍増しているし、
ジェイソンやフレディのようなモンスターではなく、
覆面を被っているわけでもないのに、
圧倒的な存在感と演技で、オスカー受賞も納得がいく。
この殺人鬼に追われるのが、
ジョシュ・ブローリン演じる、モスという男。
いかにもテキサスを具象化したようなキャラクターで、
逃亡劇を進めていくうちに、観る側は気が付けば感情移入しているわけだが、
でもこのキャラを、あっさりと殺してしまうのは、映画として惜しい。
それまで何度も窮地を潜り抜けてきたところを描いていたのに、
ここまで呆気なく消してしまうのは、原作のせいなのか、
コーエン兄弟(監督・脚本)の計算なのか。
そしてこの映画の憎いところは、ラストの不可解さにある。
殺人鬼は結局、自動車事故に巻き込まれて重傷を負うものの、
一命はとりとめて、そのまま行方不明になる。
そして彼を一時は逮捕寸前まで追い詰めた老警官(トミーリー・ジョーンズ)の、
引退と独白によって幕を閉じる。
観ている側は、何とも言えない消化不良に襲われるわけだが、
これにはコーエン兄弟も、
「原作がそうなのだから仕方がない」と弁明している。
そういえば原題は、
「No Country For Old Man」(老人に住める土地はない)。
単なるスリラーではないのだから、
犯人がどうなったかということなどは、もはやどうでもいい、
これはテキサスに生まれ育った老警官の人生譚なのだ、
という、原作者のこだわりが、ここには見える。
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