「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」(ジェームズ・R・チャイルズ)

 

何十、何百という人々が命を落とした大事故の実例を、
50以上も取り上げ、

何故それが起きたのか、それを防ぐ方法はなかったのか、を、
綿密に検証している本。

とにかくディテールがすごくて、
すべての事故の現場に居合わせたのではないかと思うぐらい、
細部についてごまかしがない。

飛行機や原発の事故といったよく知られたものから、
ハッブル宇宙望遠鏡のトラブルのような人命に関わらない事故まで、

扱う実例も幅広く、
ジャーナリズムとはかくあるべき、という見本のようだ。

この本に挙げられた実例は2000年までのものしかないが、
あの福島の原発事故について、

果たしてこの本と同じレベルの検証がなされているかどうか、
僕は詳しく知らないのだけれど、

おそらくされていない気もするし、
されていたとしても、多くの日本人はそのことを知らないだろう。

事故というのものは、もちろん起きないに越したことはないのだが、
大切なのは、起きてしまった後に、

その原因について徹底的に追及、検証、公表し、
二度とそのような事故が起きないようにすることなのだけれど、

どうもこの間の原発事故の報道を見る限り、
「喉元過ぎれば熱さ忘るる」的な、日本人のよくない習性が、
出てしまっている気がしてならない。

この本に書かれているように、
大事故の背景には、技術的な問題以上に、人的な問題が多く潜んでいる。

それが単なる「操作ミス」のようなレベルではなく、
欺瞞や慢心、あるいは政治的な問題といった、

いくら注意しても防ぎようがないようなものである場合、
日常生活においても、ちょっと怖いような気もしてくる。

日本のマスコミも、不倫問題とかを暴くのはどうでもいいから、
こういう問題にもっと真摯に取り組んで欲しいし、

とにかく科学的視点をもったジャーナリズムが、
あまりにも欠如しているように思えてならない。