「御馳走帖」(内田 百間)

 

急に湧いてくる、百間先生熱。

この「御馳走帖」は、
たとえば何とか魯山人が書くような、グルメエッセイではない。

時には文句を言い、時には仲間と楽しみながら、
「自分なりの御馳走」を楽しむという、まさに百間ワールドの真骨頂。

だから食すもの自体は、焼き豆腐でも焼き油揚げでも、
なんでもそれは、「御馳走」となる。

いくつか面白かったものを紹介すると、

百間先生は毎朝「英字の形をしたビスケット」を食べるのが習慣だったそうで、

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アイやエルは劃が少ないので口に入れても歯ごたえがない。
ビイやジイは大概腹の穴が潰れて一塊りになっているから、
口の中でもそもそする。
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なんてあたりは、しかめっ面をして英字ビスケットを選んでいる著者の姿が、
目に浮かぶようで楽しい。

また、馬肉が手に入ったので、仲間を読んで馬鍋の会を開くことになり、
それを、「玄冬観桜の宴」と名付けたり、

馬肉と一緒に、鹿肉を入れないと文字面的にバランスが悪い、
と言ったりするセンスには、感服せざるを得ない。

ピーク時には3つの学校で教えていた高給取りにもかかわらず、
借金に苦しんでいた姿と、

こうして「御馳走」を楽しんだり、
かたや全国を阿房列車で旅する姿とが、
なかなか自分の中で重ならなかったのではあるが、

この本の解説を読んでみると、
あぁ成程な、と、だんだんと百間文学の理解が深まったような気がしている。