三木成夫の素晴らしさは、こちらでも書いたが、
本書は、三木の教え子でもある著者が、
師の著作や言葉を引用・解説しながら、
その魅力について余すところなく綴ったものである。
「人間は星だ!」
冒頭、藝大での三木の講義の思い出を語る部分で、
著者が驚かされたという三木の言葉。
この言葉が何を意味するかは、最後まで読めば自ずと分かる。
それは、人間は星屑から出来ている、などという陳腐なものではなく、
人間の中に存在する、動物・植物の二面性と、
命を刻むリズムについて端的に表現した言葉なのである。
こんなフレーズも紹介されている。
「のどもと過ぎれば熱さを忘れるといわれ、
食道から下は食物の味もなにもかもわからなくなってしまう。
すなわちからだの中はまったくの闇夜で、
われわれはそこで何が起こっているのかさっぱり知ることができない」
自分も今年の1月に、生まれて初めて胃カメラを飲んで、
そこに映し出された粘膜の世界が、とても自分のものとは思えない、
というよりも、
自分のものであるはずなのに、自分のものとは思えないというか、
何処か余所事のような気がしたことを思い出したのだけれど、
確かに三木の言うように、
自分の体の中はまったくの「闇夜」で、
日々そこで何が行われているのか、自分自身ですら全く分からない。
このような体と意識のメカニズム、
ある意味当たり前すぎて、我々が普段考えもしないようなことに、
文字通り鋭いメスを入れて、
そこからさらに何億年もの生物進化の歴史にまでそのルーツを辿るのが、
三木成夫の世界である。
生物学とも違うし、進化学とも異なる、
そんな唯一無二な「三木ワールド」の入門書としては、
うってつけだろう。