フィールズ賞受賞の、日本を代表する数学者・小平邦彦のエッセイや書簡をまとめた本。
小平邦彦の名前を知らなくても、
終戦直後の1949年に、「敵国」であったアメリカの研究所から
招待をされた、と聞けば、
そのすごさは分かるだろう。
小平が招かれたプリンストンの研究所には、
ノーベル賞受賞の湯川秀樹・朝永振一郎のほか、
かのアインシュタインも同時期に在籍していた。
小平は数学の本質について、実に簡明に述べている。
曰く、
定理を「発明」したとは言わず、「発見」したという。
すなわち、物理における真理と同様に、数学的真理も存在しているのだ、と。
ともすると、数学は物理を語るための言葉であり、
物理が主であるならば、数学は従であると捉えがちであるが、
小平はそれを明確に否定する。
そしてその数学的真理に近づくためには、
単に論理的思考の訓練を施すだけではダメで、
そこには音楽などの芸術と同様のセンス、
小平の言葉でいえば「数覚」が必要であり、
そのためには小学校以降の教育をどのようにすべきかについても、
熱く語っている。
中には、リーマン・ロッホの定理とか、ハール測度とか、
聞き慣れない難解な用語や数式も出てくるが、
その部分を差し引いたたとしても、十分に読み応えのある内容になっている。
個人的におっ、と思った箇所がある。
それは著者が、中学入試に向けた算数教育がいかに無意味であるかの例として、
昭和60年の開成中学の入試問題を、わざわざ全問掲載している部分だ。
僕が開成中学に入学したのが昭和62年。
ここに挙げられた問題はその2年前のもので、
間違いなく小学6年生の僕は、それを「過去問」として何度も解いたに違いない。
もちろん今見ても覚えている問題など1問もないのであるが、
ここで著者が、「自分は時間内にすべてを解くことができなかった」と述べているのを読んで、
ちょっと安心したというか、懐かしいというか、ちょっと不思議な気持ちになった。