「『菅原伝授手習鑑』精読」(犬丸 治)

 

最初に習った浄瑠璃が「寺入り」で、
前回の演奏会(次の5月も)が「東天紅」で、

そうでなくとも、浄瑠璃をやるのであれば、
「菅原伝授」の世界を理解しておくのは必須。

副題に「歌舞伎と天皇」と付いていたり、
松王と八瀬童子を結び付けようとしたり、

作品そのものではない別のテーマに触れようとしているのだが、
幸いにも(?)その部分の記述はあまり上手くなく、

結果として、作品そのものの詳しい解説本となっている。

特に前半に張られた伏線の説明とか、歌舞伎と文楽での演じられ方の違いとか、
作品理解に大いに役立った。

それにしても、クライマックスである「寺子屋」における、
松王と源蔵の心理戦は、文学作品としても超ハイレベルだと、
あらためて感心してしまう。

さらに身代わりという「トリック」を絡ませることで、ミステリー要素を味わうこともできる。
(もちろん、この場面を「ミステリー」という語で簡単に片づけるわけではないけれど)

そういう意味では、解説で紹介されていた、増補である「松王屋敷」の段は、
すべてを語ることで「トリック」の効果を薄めることになってしまうために、
この段がオリジナルにないのは、当然といえよう。