「遊女の文化史」(佐伯 順子)

 

著者自身があとがきに書いているとおり、

「文学にあらわれた遊女像の歴史」

が本書のテーマである。

現代人にとって、「遊女」と聞くと、
どうしても性的なイメージが先行してしまいがちだが、

あえて性的な要素を否定するのではなく、
かつては「聖なる性」であった、とすることに主眼がある。

そうなると当然ながら、
「性とは何か」という壮大なテーマに辿り着くわけだが、

さすがに新書の分量でそれを扱うのはかなわないから、
著者もそこはうまく回避して、
何とか文学作品という範疇に収めるべく努力しているのが、読んでいても分かる。

特に謡曲『江口』を全編にわたり差し挟んでいるのが効果的で、

あはれ昔の恋しさを 今も遊女の舟遊び
世を渡る一節を 歌ひていざや遊ばん

というフレーズが、読後もしみじみと頭に残る。

著者は女性であるが、
その場合、得てして感情的な女性擁護論に陥りがちなのであるが、

本書ではそれが全くなく、
時には男性が書いているのかと思わせるぐらい「公平なる性の視点」を、最後まで貫かれている。
※同じく、男性が書き手の場合も、性に対する一方的な偏見が前面に出がちなのであるが、
ここにはそれがなく、非常にバランスの取れた書きぶりだと思う。

文化というものは、男女があって成り立つものであると、
あらためて考えさせられた。