毎年恒例になりつつある、クリスマス時期の温泉旅行。
今回選んだのは、山梨県にある下部(しもべ)温泉。
信玄の隠し湯として有名で、低温なのが特徴だそうな。
新宿で適当に雑誌を買って、10:30発の「かいじ103号」に乗り込む。
「えきねっと」というJR東日本のネットサービスで買うと、
時期や列車に関わらず、指定席が35%も割引になる。
だったら最初から安くしとけよ、と思うのだが、
まぁ安く乗れるのだから、あまり文句を言うのはよくない。
特急列車に乗るとやたらとビールが飲みたくなるのが、
平均的日本人サラリーマンの悲しい性だが、
まだ午前中ということで、やめておく。
1時間半ほどで、甲府到着。
ここでは今回の目的のひとつでもある「ほうとう」を食べることにする。
ひやむぎ、そうめん、うどん、きしめんなどの、
いわゆる「うどん族」(勝手に名付けた)の頂点に君臨するのが「ほうとう」であって、
麺の幅は、きしめんの三倍ほどもある。
それがかぼちゃなどの根菜がたっぷり入った濃厚な味噌スープの中で煮込まれ、
はふはふしながら食べる、というあれである。
事前に食べログで調べていたのだが、
甲府には意外とほうとう屋が少なく、
駅近にある「小作」をセレクト。
ここまでガマンしていたビールとともに、
アツアツのほうとうを汗かきながら食べる至福のひととき。
巨大なかぼちゃの塊が二つも入っていて、
ひとつはそのまま食し、もうひとつは潰して味噌に溶けこませる。
これは素直に旨い。
ビールをもう1杯飲むべきだったという若干の後悔をひきずりながら、
店を出る。
甲府駅に戻り、山梨名物の小梅を買う。
自称「梅干しマイスター」を名乗る自分でも、
塩分15%というのは、ちょっと躊躇する。
けれどそこが小梅のよいところであって、
すっぱ!と思った次の瞬間には、もう種だけになっている。
だから塩分が健康に良くないのでは、、という罪悪感が生じない。
今夜はこいつをツマミに酒を飲むと決めた。
身延線に乗るのは初めてで、
初めて乗る路線というのは、車両は?車窓は?駅は?とか、
いろいろ気になって仕方がない。
それも列車の旅の楽しみのひとつである。
賑やかなおばさま方四人組との関取、ではなく席取バトルに敗れてしまい、
ボックスシートは諦め、横向きのシートに座る。
時刻表の地図を見てみると、
身延線は、富士五湖のひとつである本栖湖を西から迂回するように走る。
富士五湖に行くときは、
いつも甲府よりだいぶ手前の大月で降りて、
そこから富士急行というのが定番だったわけだが、
ここまで来てもまだ富士五湖の近くなのかという、
ちょっと意外な感じがしながらも、
であれば、富士山が見えるはずだという期待で車窓に見入っていたのだが、
見えたのはほんの一瞬だけ、
個性的な4人のおばさまも、「大したことないわねぇ」などと言いながら、
どーでもいい話に夢中になっている。
ややうるさい。
満腹による眠気と闘いながら、
ここでも1時間半ほど揺られて、下部温泉駅に到着。
まぁ、何もない。何もないね。
うん、何もない。
足湯施設があったので、浸かってみたのだが、
加水・加熱をしていないこともあり、予想通りぬるく、
宿の温泉もこんなにぬるかったらどうしようかと、若干心配になる。
そして、今夜の宿である「梅ぞ乃」へ。
離れの部屋なので、隣のテレビの音とかも気にならずゆっくりできる。
まずはお風呂。
大きな浴槽の方は案の定ぬるめで、
小さな方は加熱してあるようだ。
いつもは熱い湯に入り慣れているせいか、最初は少し物足りない気もしたのだが、
浸かっているうちに、心地良くなってきて、
この温度であれば何時間でも入っていられるように思えてきた。
これは快適。
やはり温泉は長く入ってこそなので、このぬるさこそが正解。
そこそこで切り上げて、部屋に戻ってビールを2本空ける。
温泉後のビールほど最高なものはないわけで。
食事。
甲州といえばワイン。
正直、日本のワインはどれも美味しいものではないのだが、
サービスに付いてきたグラスワインでは物足りなくなり、
勝沼の白を追加。
川魚や山菜中心で、かなりのボリューム。
白ワインとの相性もいい。
食後には余市の小瓶と、バランタインの小瓶を半分ぐらい開けて、
そのまま布団の上で気を失った。
食後に再度お湯に行けなかったのが残念ではあるが、
そんな酩酊状態で入っていたら確実に溺れていただろうから、
やばくなったら眠ってしまうというのは、よくできている。
清算のときに、フロントで飲んだ酒を申告したら、
女将さんに「随分飲まれたんですね」と驚かれた。
二日酔いにならなかったのは、温泉効果か。
下部温泉駅に戻ると、
まさかとは思ったが、例のおばさま4人組も来ていて、
もしやまた一緒か、と一瞬緊張が走ったが、
あちらは甲府方面に戻るらしく、ひと安心。
15分ほど乗って、身延駅に着いた。
ここには、日蓮宗の総本山である久遠寺がある。
100歳を越えた祖母が熱心な日蓮宗徒であり、
子供の頃からイヤというほど法華経を聴かされてきたということもあり、
一度は訪れてみたいと思っていた。
「日本三大山門」のひとつである三門をくぐると、
本堂へ向かう階段があるのだが、見るからにヤバイ。
そして上ってみると、想像以上にキツイ。
もし二日酔いだったら絶対途中でギブアップだったろう。
途中何度も休みながら、ようやく上り切ったときの達成感は、
(大袈裟だけれども)労苦なくしては聖地には入れないといった感覚か。
靴を脱いで本堂へ入ると、
中ですべての御堂がつながっていて、自由に見学できるようになっている。
ちょうどお昼の勤行の時間で、
しばらく座ってお経を聴いていると、自然と有り難い気持ちになってくる。
こういうクリスマスイヴも悪くない。
広い堂内見学を終え、ロープウェイで山頂へ。
眼下に富士川を見おろし、正面には富士山が見える。
今から800年ほど前、
幕府から迫害され、この山に籠った日蓮聖人も同じ景色を見たのだろう。
そして故郷の小湊の御両親を思って建てたという「思親閣」。
山頂の反対側からはアルプスの山々が見える。
山を下る際に、聖人の御墓に立ち寄った。
ひっそりとしていて、誰もおらず、
奥まったところにある、立派な御墓だ。
脇には、二代目以降のほぼ全員の歴代住職の御墓が並んでいて、
まさに聖地と呼ぶにふさわしい場所だと思った。
近いうちに『立正安国論』を読んでみようと思う。
きっと現代にも活かせるヒントがあるはずだ。
思わず長居してしまったため、帰りのバスがなく、
タクシーを呼んで身延駅へ戻る。
次の列車まで1時間待ち。
あとは帰るだけだ。
また1時間半ほど乗って、終点の富士駅に着く。
これで身延線はコンプリートしたことになる。
タクシーで新富士へ移動。
典型的な「新幹線だけの駅」で、駅の周りは何もない。
待合室にある観光案内の映像も残念なカンジで。
ビール2本を買ってこだまで帰京。